終盤の考え方

 はじめまして。なにわづです。
 私の記事のスタイルとして、初めに文章全体のまとめを書いておこうと思います。「ふむふむ、まとめはこういう意味だったのか」と読み進めていってください。

 〈今回のまとめ〉
・終盤、間違えないためには「速度」を考えよう

 終盤の勝ち方について話していきたいのですが、実践の前にまず理論について話していきたいと思います。
 というわけで、文章メインとなってしまいましたが、読んでいただければ幸いです。
 終盤、手を指す前に第一に考えなくてはいけないのは現在の形勢です。「有利な時は直線的に、不利な時は曲線的に」という考え方が基本となってくるのですが、形勢が分からないと如何ともし難いです。そこで、形勢判断の根拠について考えていきましょう。
 一般に、将棋の形勢は駒得、駒の働き、玉の堅さ、手番という4つの基準で判断されます。そして、駒得の価値は終盤にかけて下がっていき、それ以外の要素の価値は終盤にかけて上がっていくという考え方がなされているのです。
 しかし、私はこの考え方に賛同しかねます。確かに序盤・中盤の考え方について大きな誤りはないと思うのですが、終盤はいささか特殊で、それぞれの価値の差が大きくなり、正しい判断がしづらくなってしまうと思うのです。どれだけ駒得だろうと、どれだけ駒の働きが良かろうと、自玉が詰んでしまったら負けだからですね。
 終盤はシンプルに、「相手の玉を詰ますまでの手数」という一つの要素だけによって考えるのが良いと考えます。相手よりも1手でも先に玉を詰ませば勝ちなのですから、これほど簡単で核心を突いた表し方はないと思います。一般には、「速度」と呼ばれるものですね。これを考えの中心に据えるべきである、というのが私の終盤に対する意見です。
 例として、特にわかりやすい図面を用意しましょう。

速度計算図
後手の持駒:飛二 角二 金四 銀三 桂三 香三 歩十一 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v玉|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ と ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ と と ・|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・vと ・ ・ ・ ・ ・|七
| 香 銀 ・vと ・ ・ ・ ・ ・|八
| 玉 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手の持駒:なし
手数=0    まで

この図では、先手玉はいわゆる穴熊という囲いで、先手玉には王手がかかりません。そのために、後手は膨大な駒を持っていますが、先手玉を詰ますことができないのです。例えば△7八金と指せば先手玉は詰めろなので、この局面で先手玉を詰ますためにかかる手数は「2」ということになりますね。一般的に「2手すき」と呼ばれたりするものです。
 逆に後手玉はどうでしょうか。実はこの図面、後手玉には詰めろがかかっていますが、受けがありません。よって先手が後手玉を詰ますまでにかかる手数は「1」ということになります。
 先手は大幅に駒損していますが、全く関係なくこの局面は先手勝ちとなっています。「先手のほうが後手より速度が上だから、先手勝ち」ということですね。
 このように、「速度」という考え方を導入した場合の利点は2つあります。
 第一に、指し手の方向性がわかりやすくなるということ。自分の速度が勝っている場合には直線的に攻めればよく、逆に自分の速度が劣っている場合には受けたり、攻防の手を指さなければいけない、とわかりやすい基準で一定の指し手の方向性を決めることができます。
 そして第二に、指し手の価値を測ることが容易だということ。普通に相手玉を攻める手の価値を0として基準とすると、自玉を一手分延命しつつ相手玉を攻める手の価値は+1、攻めないが自玉を三手延命できる手の価値は+2というように、手の価値を単純な数字として表せます。この基準で指し手を決めれば、難しい局面、短い時間といった厳しい状況でも間違った手を指しにくくなるのです。
 ここまでは理論編。わかりやすい例として、実戦の棋譜を一つ見ていただきましょう。後手が私です。

第1図
後手:なにわづ

後手の持駒:歩 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v金v桂v玉|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛v銀v香|二
| ・ ・ ・v歩v銀v金 ・v歩v歩|三
|v歩v角v歩 ・ ・v歩 ・ ・ ・|四
| ・v歩 ・ 歩 銀 ・v歩 ・ 歩|五
| 歩 ・ 歩 ・ ・ 歩 歩 歩 ・|六
| ・ 歩 角 ・ ・ 金 桂 銀 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 ・ ・ ・ 玉 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:先手
先手の持駒:歩 
手数=53 ▲2七銀 まで

 四間飛車対居飛車穴熊の戦い。△3二飛と一歩交換を目指して飛車を回り、△3五歩に▲2七銀と上がった局面です。
 ▲2七銀は利きを足したものですが失着。このタイミングで離れ駒を作るのはあまりに危険でした。後手は先ほど説明したように王手のかからない穴熊。ここから穴熊を生かした攻めがあります。

 〈第1図からの進行〉
 ▽3六歩 ▲同銀 ▽同飛! ▲同金 ▽5七角成 ▲5四歩 ▽4二銀 ▲8二飛 ▽4七銀(第2図)

第2図
後手:なにわづ

後手の持駒:歩二 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v金v桂v玉|一
| ・ 飛 ・ ・ ・v銀 ・v銀v香|二
| ・ ・ ・v歩 ・v金 ・v歩v歩|三
|v歩 ・v歩 ・ 歩v歩 ・ ・ ・|四
| ・v歩 ・ 歩 銀 ・ ・ ・ 歩|五
| 歩 ・ 歩 ・ ・ 歩 金 歩 ・|六
| ・ 歩 角 ・v馬v銀 桂 ・ ・|七
| ・ ・ ・ 飛 ・ ・ ・ 玉 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:先手
先手の持駒:歩 
手数=62 △4七銀 まで

 ▽3六同飛が決め手。といってもわかりにくいと思うので、この局面を速度の観点から考察していきます。
 先手は▲8二飛と反撃しましたが、後手玉を詰ませるまではまだ遠く、次に▲4四銀と出ても後手玉に王手もかからない形です。後手が放置して▲4三銀成としても、▲2二角成▽同金で王手がかからないので詰めろになりません。▲4四銀~▲4三銀成~▲3二金でやっと詰めろがかかるので、▲4四銀に▽同金▲同角▽3三銀打と受ける手もあることを考えると後手玉の状態は「4手すき以上」となります。
 それに対して先手玉はどうでしょうか。▽4七銀の局面で次に▽3六銀成とし、それから▽6八馬と取れば詰めろなので先手玉の状態は「3手すき」となります。つまりここでは先手は受ける手を強要されているのです。自玉を受けている間は後手玉の手数は進まないので、後手玉が「4手すき以上」のまま先手玉が追い詰められていきます。
 〈第2図からの進行〉
 ▲3五金 ▽3六歩 ▲2五桂 ▽6八馬 ▲同角 ▽6九飛 ▲5九角 ▽同飛成 ▲同金 ▽3七角 ▲1七玉 ▽5九角成(投了図) 迄後手勝ち

投了図
後手:なにわづ
後手の持駒:金 歩 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v金v桂v玉|一
| ・ 飛 ・ ・ ・v銀 ・v銀v香|二
| ・ ・ ・v歩 ・v金 ・v歩v歩|三
|v歩 ・v歩 ・ 歩v歩 ・ ・ ・|四
| ・v歩 ・ 歩 銀 ・ 金 桂 歩|五
| 歩 ・ 歩 ・ ・ 歩v歩 歩 ・|六
| ・ 歩 ・ ・ ・v銀 ・ ・ 玉|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・v馬 ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:先手
先手の持駒:飛 角 歩 
手数=74 △5九角成 まで

 先手玉が4手すき以上にならないと先手は反撃に出られませんが、後手はなおも厳しく攻め続けます。結果先手に反撃の機会は訪れることなく、▽5九角成の局面で先手玉は2手すき。逆転の見込みなしと見て、先手は投了しました。
 実はこの対局は5分切れ負けの早指し戦で、ほとんどノータイムで指しています。ただ、速度計算を頭に入れて指していたことで、逆転の機会を与えず勝つことができました。「有利な時は直線的に、不利な時は曲線的に」という考え方に則り、攻め続ける判断を下すことが容易だったのが分かると思います。
 これから記事を書いていく上で、この「速度」という考え方を明確にして書いていくので、実戦でもこのことをしっかりと考慮に入れて指してみてください。終盤戦が強くなると思います。以上、終盤の考え方についてでした。
 
〈再掲・今回のまとめ〉
・終盤、間違えないためには「速度」を考えよう

 というわけで、記事はいかがだったでしょうか。「ここが分かりにくいよ」とか、「ここについて意見を聞かせてほしい」など、積極的にコメントして頂けると幸いです。今後の執筆の参考にさせていただきます。

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コメント

  1. たか says:

    ▲3六金ですか、自分は見落としていました(汗)この場合ちょっと重くなってしまいますね。
    △4九馬は恥ずかしながら見えませんでした…。
    詰めろをかけつつ、歩成りも狙えるのでかなり良さそうですね。

    自分は指手の広い時に迷ってミスしたりするので、とても参考になりました。
    ありがとうございました。

  2. たか says:

    自分も既成の理論には疑問に感じていましたので速度論は大変参考になりました。

    投了図以降は38銀と詰めろをかけるのが良いのでしょうか?

    57飛車と受けても27金で詰んでいるように見えます。

    • あず says:

      そうですねー。もちろん速度で勝っているので何しても勝ちですが、△3八銀不成には▲3六金が少し気になります。△3七歩成を残して△4九馬が明快でしょうか。